『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』ステファニー・ランド / 著 (株式会社双葉社)【選書・ワークスタイル】

【ブログ新規追加511回】

メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書く事で自らを救ったシングルマザーの物語』ステファニー・ランド / 著 (株式会社双葉社)

• あらすじ

夫からの精神的DVを受け続ける女性ステファニー。

地獄から抜け出すために選んだ新たな道=職業は「メイド」と「書くこと」だった。

シングルマザーとなって幼い娘と生きるステファニーの前に立ちはだかる壁とは・・・。

親も友だちも公的支援も彼女を突き放してゆく。

それがどれだけ残酷で浅はかなのかも知らずに。

               ☆彡

Netflixで今、話題の作品。(10月1日から配信中)

書籍が先に出ていたので、まず読んでからと思い手に取った。

『メイドの手帖』とは、生活の糧にメイドとして働きながら「書くこと」で人生を獲得してゆく女性の物語だ。

(画像;Netflixより拝借)

•『メイドの手帖』書籍レビュー

著者の実体験を赤裸々に、かつ詳細に語り綴った一書。

シングルマザーのステファニーは、一人娘のミアを期間限定のホームレスシェルター(避難シェルター)で育てつつ、最低賃金のメイド、いわゆる清掃員として働いている。

1歳の誕生日を迎えたミア。歩き始めたばかりだ。

ただ、ミアの初めて立ったところはグレイの壁と薄汚れたキッチンだけの小さな「ホームレスシェルター(避難シェルター)」だった。

それでも、愛する我が子の成長を祝うために無機質で薄汚れた部屋をきれいに飾り立てる母ステファニー。

DVを振るう元パートナーや、経済的自立を阻む恋人、ステファニーには気持ちも振舞いも冷ややかなな両親。

この健気な親子を見守り、助けてくれる人の少ない過酷な実情。

貧困や社会の偏見など、これでもか!と、彼女の自己肯定感を引き下げる要因ばかりなのがとても辛く、読み続ける意欲を削がれやすいものだった。

しかし、彼女は絶対に希望を捨てなかった。

地獄のような運命も、たった一本のペンで切り拓いていくと決めて、ありとあらゆる行動を勝ちとり本当に夢を叶えてしまう。

子どもの頃から文章を書くのが得意で、また好きで仕方がなかった。もちろん将来の夢は「作家」となって、自らの運命に決着をつけてゆくのが願いだ。

強き信念のもと、夢と希望を「書くこと」で叶えたステファニーの自伝的作品だ。

発売早々に全米でベストセラー入りし、オバマ大統領時代には推薦図書にも選ばれた。現在、NETFLIXで映像化されている。

• 読後感

最後まで、読み続ける辛さはこれほどとは。

何度もやめよう!と、立ち止まりながらも、最終章まで辿りついた。

救いはやはり、子どもの成長する姿だった。

過酷な運命に翻弄され続けた幼いミアが幼稚園に入り「ママ、ハイキングに行こう!」と、ミズーリの小高い山(標高150m)へハイキングに誘う場面が素晴らしい。

ハイキングの途中でへばりながらも何とか頂上に登り切った姿が清々しい。たくましくなったミアの成長ぶりが、泣きたくなるほど嬉しかった。

小さなミアを育てながら、来る日も来る日もペンを走らせて、今、自分が置かれている過酷な仕事の状況や子育て、恋愛、辛辣な言葉を浴びせる世間、狂暴な精神的DVを受けたことなどを、時系列にどんどん、自分の言葉ですべてを書き綴ってきた。いや、書かずにはいられなかったのだろう。

この「書く」という行為がどれだけ彼女の自己肯定感を「引き上げた」のか計り知れない。

書かずにはいられなかった一書。結果は全米で大ベストセラーとなって、優秀な書き手として世間に迎えられたのだ。

また、あれだけまわりにこの親子を助け支援する者がいなかったのだが、最後には、書籍の数ページを擁するぐらいの支援者に囲まれていた。

そして、数々の支援者に向けて贈られたステファニーのメッセージは「私のそばで一緒に歩いてくれて、ありがとう」だった。

読んで良かった一書となった。

奥付の一節から

~生計を立てることと、人生を築くことは別なのだと知った~マヤ・アンジェロアのことば