『バリ山行』松永K三蔵・著(講談社)【選書・文化】

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『バリ山行』松永K三蔵・講談社

簡単レビュー

第171回芥川賞受賞作。(2024年上半期)


あらすじ


古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。

会社の付き合いを極力避けてきた波多は、同僚に誘われるまま六甲山(標高932m)登山に参加する。

その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていた。

職人気質で変人扱いされ孤立している、ベテラン社員妻鹿(めが)があえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしていることを知ると……。

「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか! 本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。妻鹿さんはそれから逃げてるだけじゃないですか!」(本文より抜粋)

会社も人生も山あり谷あり、バリの達人と危険な道行き。圧倒的生の実感を求め、山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説。

                ★★★

やっと手にいれた「バリ山行」

おもに六甲山を舞台に書かれた小説だ。

かっこいい装丁。

もくじもない、はじめにもない、あとがきなどない。

一気によませる161ページ。

期待しかない、待ち望んだ「山岳読書登山体験」だ。

一本のあらすじが貫く、「山の怖さ」と「社会の厳しさ」これが、ビジネスマンに受けた一番の理由だ。

伏線回収は、最後にしれっと、訪れる。見事としか言えない。

バリとは?簡単に説明しよう。

山で言うバリエーションルートとは、一般の登山道として整備されていない、難易度の高いルートのこと。

道標や整備された道がなく、ルートファインディング(正しい道を見つける技術)と、クライミングやロープワークなどの登山技術が必要とされえる。

体力だけでなく高度な技術と経験が求められ、登山図などにもルートが記載されていないため、登山者は自己の判断で進む必要がある。

男性的な要素が強くハード面でも装備面でも魅力的だが、一方では自然破壊につながる行為だと賛否が分かれる。

このあたりの社会的議論も含む内容が読み応えを増す。

                ★

以前、伊豆高原の三筋山(標高821m)で「軽いバリ」をやっている男性登山者達を見かけた。

急な山頂付近の岩肌を、数人で一気に駆け下りてきた。

えっちらおっちら、最後の急登を登っていたわたしは、何のことだかわからなかったが、一般道をまったく無視したその下りの様相は、自然破壊?を連想させる勢いそのものにも思えた。

手に持つピッケルで藪を切り裂き、ガンガン進む「藪漕ぎ」をやっていた。

ああ・・・危ないな・・・としか思えなかったわたしは、ひたすら一般の登山道を一歩、一歩ゆっくりと登り登頂した。

もちろん、帰りも来た道をピストンした。

「藪漕ぎ」された後を歩いたらショートカットできるのだろうが、踏み倒された自然をさらに踏み馴らすことは、はばかれたから。

で、今回紹介した「バリ山行」は、その一見、身勝手に見える「バリエーションルート」を毎週登り、ヤマレコ?のアプリに記録している会社員「妻鹿・めが」と、仕事に悩む「波多・はた」という「バリにハマる男」の社会派小説だ。

こわいのは、ヤマレコ?アプリに毎週のバリルートを記録投稿していること。

それを誰にも言ってはいない妻鹿だったが、ある日を境に数人に見つかってしまい、「バリ」をやっていることを知られてしまう。

ちょっとだけいいな?!と思ったのが、山アプリの登録者名だ。

主人公の波多は「Hatagonia」女性社員の多門さんは「Tamontbell」でアウトドアメーカーの名前と自分の名前のミックスでつけられていたことだ。

どこかで真似したい発想(笑)

で、山アプリの話に戻ると。

なるほど。

単なる山行記録だと思ってルート設定していたものが、勝手に他人に見られてしまう。

WEBアプリだから公開設定で投稿すれば、当然といえば当然だ。

そういった個人情報はしっかりと管理しなくてはいけない。

他人に見られないように設定する?有料会員になる?などの手配が必要なのかしら?

わたしは、誰にでも行ける山(観光的な)しか行かないので、登山アプリは登録もしていないし、有料会員にもなってはいない。

そういった山関連の装備なども結構詳細に書かれている。

一冊の小説から得られる情報はとても多い。

もし、山が好きなら読んでみてもいい一冊だ。

なにより、その「一気に読ませる文脈」には舌を巻くだろう。

山岳小説は「登らずして登る」もの。こんな登山体験もいい。

それでは、また!

ー--------------------------------------------旧記事更新

“『バリ山行』松永K三蔵・著(講談社)【選書・文化】” への1件の返信

  1. 「備蓄米 果して尚も 初嵐」 清流子
    今年は何とか備蓄米で耐え偲んだ庶民だが、追い討ちをかけるように災害が続く。記録的な猛暑と水不足の後は、台風シーズンへと入った。来年の市場価格が思いやられる。根本的な農業政策の見直しに迫られているが、受けて立てる政治家が少ない。政治状況次第だが先が見えない。バリエーションルートを行くようなものか!

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