『エコな生活 少しの工夫でおいしい毎日』マキ・著(KADOKAWA)【選書・文化】

【ブログ新規追加742回】

エコな生活 少しの工夫でおいしい毎日

図書館でこの本の表紙に目を奪われた。

野菜いっぱいのかごを持っているのだろう・・・と。

でも、よ~く見ると野菜は野菜でも野菜くずだ!

(これで野菜のスープストックを作るのだそうだ)毎週一回のスープ煮だしデーの話。

ああ~~、これも今、流行りのSDGsかあ。

「何もかもではないけど、自分で作れる」

「自分で作ることで、安心、安全を手に入れる」

「おしゃれはやっぱり高い。だから手をかけて長く使う」

自家製味噌や梅干しなどは、比較的できる人が多いだろう。

わたしが、最も注目したのは、「自家製バター」だ。

作り方はいたって簡単。

用意するもの(生クリーム200ml/乳脂肪分45%以上のものが好ましい、塩 小さじ1分の3)

たったこれだけ!

でも、ブレンダー持ってないよ。(攪拌するために必須の道具)

そこで、Amazonや楽天に飛んでブレンダーの価格を調べる。

ふ~ん、最安値は2980円。

前から欲しいかも?と、思っていたブレンダー。

すぐには手が伸びなかったの。自家製バターだけじゃあ、買わないよ(泣笑)

そこに、夫が100均で買ってきたカワイイ蓋つきボトル。

「野菜の酢づけ」とか作ってよ!と。

キッチンに並べてもきれいじゃん!とか。

そうだね。

梅雨の間は野菜の酢づけを仕込んでおこう。

あと、一品欲しい時に重宝だよね。

と、働きwomanの休日は終わったのだ。

ほぼ、自分で作りたい方は、どうぞ、本書をご覧ください。

バターもレーズンバター、いちじくのバターなどがとてもおしゃれ!

はあ、ブレンダー買って、バターを作るかどうか?

迷いの境地だわ(笑)

最後に書籍の簡単レビューを。

『エコな生活』少しの工夫でおいしい毎日


きなこは大豆からできているのを知っている?

たぶんお読みの皆さんは知っていると思う。

では子どもたちはどうでしょう?

きなこはベージュの粉。

そんな子どもたちが多いのではないだろうか?

子どもとの会話の中で、

きなこって何でできてるか知ってる? 大豆なんだよー、納豆とおんなじ。
すごいよねーえへへー

って言いながら、
目の前で作って見せて、ぺろって味見して、甘ーい!って言いながら笑顔になるのが、幸せなんじゃないかと思っているそうだ。

そして、完全な消費者になると、バターがお1人様1個までと制限されたら焦ってカゴに入れてしまうかもしれないけど、
バターの作り方を知っていれば陳列棚を素通りできる。

お金を出せば何でも買える時代だけど、逆に売っているもののほとんどが自分で作れることも確かなのだ。

自分で作ったほうが簡単で美味しい!

そして材料が明確で安心できるという発見はとても楽しいし、大切だと思っている。

便利な世の中なのだけど、なるべく自分の手を使いながら、昔の良いところを取り入れてみたら、暮らしの満足度はぐんと上がったそうだ。
その方法を、皆さまにもお伝えできたらと思って書かれた一書である。

★2024年5月1日更新 『旅のつばくろ』沢木耕太郎・著(新潮社)~GW3日目は家掃除と旅エッセイでくつろぐ【文化・旅エッセイ】

【ブログ新規追加702回】

GW3日目。

午前中、ずっと溜めていた家のあらゆる場所の掃除に勤しんだ。

お風呂、キッチン、トイレ、洗面台・・・水回りばかりだね。

こんながっちりした掃除を梅雨明けまでは毎月やりたいなあと、願ってはいるのだけれど実際は難しい。

フルタイムの仕事がで~んとあるでしょ。週末は買い出しだけで最近ではちょっと、ヒーヒーになってきちゃってるし(泣)

夫は「掃除って溜めてやるんじゃなくて、こまめに!が鉄則でしょ?」と。

まあまあ、いいんだけど。

多分、この先も溜めてからやるんだろうな、わたしは。

で、やっと掃除人から解放された、GWなのに雨の午後。

ずっと、読みたかった沢木耕太郎氏の旅エッセイを手に入れたんでさっそく読んでいる。

それがねえ、驚くほど読みやすく、話の展開の上手さに舌を巻きっぱなしだ。

たとえば、「歌手の井上陽水は旅先を決めない」というこぼれ話を実に痛快に書き上げる。

成田空港に着いた陽水氏が開口一番に言った言葉は「さて、どこに行こうかな?」とか、言ったとか。

こんな話が満載の初エッセイ。

面白くないわけ、ないでしょう!

一気に読んでしまったので、熱が冷めないうちにレビューしよ。

• 簡単レビュー

ルポライターで作家の沢木耕太郎、日本中を旅する。

それは、まるでつばめのごとく、軽やかに。

そう、人生も旅も。

沢木耕太郎氏、初の国内旅エッセイだ。

旅のバイブルと呼ばれた『深夜特急』で、世界を縦横無尽に歩きまわった。

沢木氏の初めての旅とは、16歳の時、行き先は東北だった。

あの頃のように、自由にきままに日本中を歩いてみたい。

日本という国を、ただ歩いただけだし、歩きたいだけなんだ。

この作品はJR東日本 新幹線車内誌「トランヴェール」で大好評を博した連載だ。

満を持しての単行本化となった。

※ 今回、Amazonで書籍を紹介するにあたり、電子版無料の広告を載せてみた。ぜひ、利用してみて!電子オリジナル版では、沢木耕太郎氏撮影「旅のフォト」も収録されていて秘蔵版ともいえそうだ。

旅のつばくろ』沢木耕太郎



★2024年4月5日更新 『過剰な二人』林 真理子・見城 徹 (講談社)作家と編集者の仲直り対談~16年間の不仲を越えて書かれた名書【選書・文化】

【ブログ新規追加677回】

『野心のすすめ』の林真理子さんと、『たった一人の熱狂』の見城徹氏。

作家と編集者二人のカリスマによる「生き方の教科書」だ。

才能を見い出し、見い出され、また刺激し、磨き上げた編集者と作家の関係が濃密な名言の応酬となって一冊に凝縮された「とてつもない」一冊である。

過剰な二人』林真理子・見城徹 / 著 (講談社)

簡単レビュー

まず、目次が目を引く。

対談  過剰な二人の「失われた16年」

第一章 人生を挽回する方法

第二章 人は仕事で成長する

第三章 最後に勝つための作戦

第四章 「運」をつかむために必要なこと

目次を書いてみたが、どうだろうか?ハッとさせられる項目ばかり(笑)

一つの章の中に林さんが5本、見城氏が5本のエッセイや体験談をしたためている。

どう読んだって面白過ぎるし、やはり「事実に勝る物語はない」と感じさせる圧巻の文章だ。

さて、優秀な編集者に巡り合えたら、賞を獲得できるような作品が書けるのであろうか?

答えはYES。

しかし、それはどうやっって賞を獲れるか?をテキスト的に作家に伝授しまくって手練手管で書かせるのとは、全く違うものなのだ。

優秀な編集者は作家に戦いを挑ませるものだ。かの名女優の岸 恵子さんの作品「わりなき恋」は彼女が51歳の時に書かれた名作。日本文芸大賞受賞作品。

この作品もどっぷり見城 徹氏が関わったことで有名なのだ。その関り方とは・・・。

何かのTV番組で観たのだけれど、見城氏は岸さんのことを「文章は上手いけど、いつもきれいごとしか書かない」と一刀両断した。

このコメントをTVでたまたま観ていた岸さんはカッ!となって、「じゃあ、書きます!書くわよ!」となったという、彼女の執筆に対する熱量を上げるというか、闘争心を湧き立たせて名作を書かせたのだそうだ(凄)

岸さんが観るかど~かなんてわからないTV番組でのちょっとした話のネタに使ったわけ。ある意味確信的だなあと思った。

なんと、鋭い編集魂だろう。

わたしの拙い経験をちょっとだけ書いてみよう。

わたしは、書籍のレビューを小学館系列会社で毎週5本書くという仕事を約2年半続けたのだ。

その時お世話になった編集者(TSUNAGUさんという)彼には本当に文章の何から何まで教わった・・・と、書きたいところだが、実は、それほど教わってはいない(笑)


編集者TSUNAGUさんの一番得意とするコミュニケーション力は、とにかく書き手を「褒める」ことを実にスマートにやってくれたことだろう。

必死で書いた文章を褒められたら、誰だって飛び上がるほど嬉しいものだ。しかも彼は、どこがどう素晴らしい!のか?をちゃんと提示してくれた。

レビューを書き始めて2ヵ月が経ったころ、毎日にように記事に対するお褒めのコメントが届き始めた。

その内容は「〇〇さんの豊富な情報量と、文章の長さに圧倒されている、ダラダラ書いているように見えてちゃんと収拾されている!」というもの。

で、最後に「もっと、もっとたくさん書いてください!」と。

要するに情報とエピソードの両輪づかいで書いていたから、毎日わたしの小さなストーリーを書籍レビューと一緒に読んでいるのだと。(一粒で二度美味しいとも言っていた)

わたしにとっては、書籍は記事の本ネタであって、それを彩る周辺の情報だったり自分が体験したエピソードを散りばめるのは、今のブログの書き方とまったく同じ。

「短いストーリーを含む書籍のレビュー」は、わたしだけのオリジナルなわけ。

その部分を大いに褒めちぎってくれ、わたしの自信と書き続けるやる気に小さく火を灯し続けてくれたんだ。

やっぱり、編集者ってすごい!

見城氏は「人たらし」と言われているらしいけど、本当のことしか言わない鋭さは、何ものにも代えられない価値があると思えて仕方がない。

もう、何十回も読んだ「過剰な二人」を一度手に取ってみてほしい。

書く人もそうでない人も。

必ず、人との繋がりを濃くしたくなるよ(笑)




『103歳になってわかったこと ~人生は一人でも面白い』篠田桃紅・著(幻冬舎)【選書・文化】 

【ブログ新規追加662回】

103歳になってわかったこと~人生は一人でも面白い』篠田桃紅・著(幻冬舎)

• 簡単レビュー

現代美術家・篠田桃紅(故)とは。(2021年3月4日で107歳の天寿を全うされた。)

「いつ死んでもいい」なんて噓。

生きているかぎり人間は未完成だとおっしゃる。

大英博物館やメトロポリタン美術館に作品が収蔵され、一〇〇歳を超えても第一線で活躍を続けた現代美術家・篠田桃紅。

(2022年は、東京オペラシティでの展覧会が開催中)

「百歳はこの世の治外法権」「どうしたら死は怖くなくなるのか」など、人生を独特の視点で解く。

生きるのが楽になるヒントが詰まったこれぞ珠玉のエッセイ集だ。

                   ★

文中のお話に「これは!大事な視点」だと思ったところを引用する。

~「真実は皮膜の間にある」という近松門左衛門の言葉のように、真実は求めているところにはありません。

しかし、どこかにあります。

雑談や衝動買いなど、無駄なことを無駄だと思わないほうがいいと思っています。

無駄にこそ、次のなにかが兆(きざ)しています。

用を足しているときは、目的を遂行することに気をとられていますから、兆しには気がつかないものです。

無駄はとても大事です。

無駄が多くならなければ、だめです。

お金にしても、要るものだけを買っているのでは、お金は生きてきません。

安いから買っておこうというのとも違います。

無駄遣いというのは、値段が高い安いということではなく、なんとなく買ってしまう行為です。

なんでこんなものを買ってしまったのだろうと、ふと、あとで思ってしまうことです。

しかし、無駄はあとで生きてくることがあります。

私は、3万円だと思って買ったバッグが30万円だったことがありました。

ゼロを一つ見落としていたのです。

レジで値段を告げられて驚きましたが、いい買い物をしたと思っています。

何十年来とそのバッグを使っています。

そして、買ってしばらくしてから、そのバッグの会社オーナーが私の作品を居間に飾っていることを雑誌で知って、あらお互いさまね、と思いました。

時間でもお金でも、用だけをきっちり済ませる人生は、1+1=2の人生です。

無駄のある人生は、1+1を10にも20にもすることができます。

私の日々も、無駄の中にうずもれているようなものです。

毎日、毎日、紙を無駄にして描いています。

時間も無駄にしています。

しかし、それは無駄だったのではないかもしれません。

最初から完成形の絵なんて描けませんから、どの時間が無駄で、どの時間が無駄ではなかったのか、分けることはできません。

なにも意識せず無為にしていた時間が、生きているのかもしれません。

つまらないものを買ってしまった。

ああ無駄遣いをしてしまった。

そういうときは、私は後悔しないようにしています。

無駄はよくなる必然だと思っています~『103歳になってわかったこと』からの引用。

                   ★

さて、わたしは今月また1つ歳を取る。

篠田桃紅さんからみれば、まだまだはなたれ小僧でしかないが、世間では「人生一区切り」などと言われ、引退や定年などを考えて、実行に移す人も多いお年頃だ。

無理はたくさん積み重ねてきたけど、無駄はしないように生きてきた。

無駄を推奨する桃紅さんとは真逆の生き方(笑)

こういっちゃあなんだけど、人の生き様って「ムダとムリ」から生まれるものかもね。

浪費なんて大嫌い!といいつつ、好きなお酒を飲むことやダラダラと文章を書き綴る時間、これら「浪費と言う名の矛盾」がわたしを彩るのだから。

桃紅さんのおっしゃることはきっと、こうだろう。

「人生に無駄なことなんか何ひとつないんだから」

「ま、せいぜいお楽しみなさいよ!」

はなたれ小僧の解釈だわん(笑)

近代・現代文学を読もう~年度末は読書も総ざらい~おすすめ8作品【選書・国内文学】

【ブログ新規追加649回】

良い文学は人の心から人の心へと伝わる橋渡しのようなものだ。

文学とは、作家の探求心や闘争心のすべてが詰まった珠玉の存在だと深く感じている。

わたしは、本の紹介をする仕事を公私にわたり続けているが、年度末には、よりよい文学を1冊でも多く読みたいと思い、多忙だが、図書館へ毎週のように出向き物色しているのだ。

2021年度ももうすぐ終わる。

そこで、近代から現代のこれは!と思う小説作品を8冊紹介する。

こまかなレビューはしないで、単なる選書をしただけ。

気になる書籍が見つかったら、どうぞ、書名をクリックください。(書籍情報をリンクしてある)

                     ★★

• 『夢十夜』夏目漱石

•『舞姫』森鴎外

•『総統の子ら』皆川博子

• 『蒼穹の昴』浅田次郎

• 『幕末新選組』池波正太郎

• 『のぼうの城』和田竜

• 『仏果を得ず』三浦しをん

• 『九天に鹿を殺す』はるおかりの

文学しかり、エンタメしかりと、少々雑食ぎみの選書をしてみた。

もし10冊にするとしたら、あとの2冊、あなたなら何を選ぶ?

『』あなたの2冊を選んでみて!


★2024年3月1日更新 『ミニマリストという生き方』辰巳 渚・著(宝島社)【選書・文化】

【ブログ新規追加643回】

弥生・3月になった。

新年度を迎える準備に忙しくなる季節の到来だ。

身辺の整理をされる場合もあるだろう。

そんな時に人生を変えるような「振り切った片づけ」をしたい!と思っているなんて方にうってつけの一書を紹介する。

ミニマリストという生き方』辰巳 渚・著

• 簡単レビュー

モノを最小限に減らして暮す「ミニマリスト」という考え方を持つ人たちが最近注目を浴びている。

しかし、ミニマリストが普通と違う考え方や普通の暮らしを避けているわけではない。

本書では、そんな最小限にモノを減らすに至った経過や原因、ミニマリストのゴール、これだけは手元におく、など等身大の5人のミニマリスト達への取材が読めるある意味片づけに悩む人へのサポートとなる一書だ。

本書に散りばめられたミニマルにスッキリと暮らすきっかけや考え方は、ひとり暮らし、夫婦ふたり暮らし、子どもと家族4人暮らしなど、形態別に書かれている。

著者・辰巳 渚さんも元ミニマリストだそうだ。ミニマリストになるきっかけ、プロセス、現在の暮らしぶりや考え方もレポートされた興味深い名書だ。

                    ★

さて、「ミニマリスト」という言葉と考え方を生き方にまで昇華させたのはいったい、いつのことだったのだろう。ちょっと、調べてみた。

『ぼくたちに、もうモノは必要ない』で披露された、ミニマリストの定義は二つあって、① モノは自分に本当に必要な最小限にすること。② 大事なモノのためにそれ以外を減らすことを「ミニマリズム」とし、そうする人のことを「ミニマリスト」と呼ぶ。

自らを定義し、その定義によって自らの存在を宣言する・・・ということらしい。

だって、片づけブームはもうかれこれ20年ぐらい前から始まっていて、モノを減らすことにもすっかり慣れた世間があったハズよね。

それでも、何だろうな「ミニマリスト」は別の空気をまとっているみたいなもので、この呼び名自体に価値を見出した人も多そうだ。

今回取りあげた『ミニマリストという生き方』の中で印象的だったのが、お笑い芸人の小島よしおさんだ。

彼のやっているミニマルな暮らしは、頭と身体を鍛えるべくして用意した、最高の環境だった。ここを読むだけでもこの一書の価値はあるだろう。

さ!3月。

ミニマリストに興味のある人も、反感のある人も、片づけや掃除に動きだそう。

たった一冊の本で人生が変わるかもだし、たった半日家の中を掃除しまくるのでもやや、人生に変革が生まれるかも(笑)

3月は春の期待と予感の月だから。

2024年2月22日更新 2022年2月22日「猫の日」~じゃあ、昨日は何の日?~2月21日は「夏目漱石の日」だった!夏目漱石・著『明暗』も紹介🎶【選書・文化】

【ブログ新規追加635回】

一昨日、フライングで早々と猫をとあるSNSにアップした。

で、今日はここにも(笑)

普通の猫じゃないとダメよね。で、「吾輩は猫である」を取り上げようか?と思ったが、なんと!昨日がかの「夏目漱石の日」だった。

気づいたのは、今よ今(笑)

せっかく、多くの書籍を紹介するブログを運営中なんだから、夏目漱石の名作を一書取り上げてみよう。

明暗』角川文庫

• あらすじ

新婚の男には忘れられない女がいた。

津田は勤め先の社長夫人の紹介で、お延という女とあっさり結婚した。平凡な毎日を送る津田とお延。津田はお延と知り合う前に将来を約束した女性がいた。清子という。

しかし、清子はある日突然、津田を捨てて昔からの幼馴染の男と結婚してしまう。数年が経った後、清子が温泉場に一人で滞在していることを知るのだ。

未練がましく、しょうもない男の性を引きずるように、津田は密かに清子の元へと向かってしまう。

                    ★

大正5年、漱石の死を以って連載終了した未完の名作だ。

人間のエゴイズム神髄に迫った長編大作小説。

読者は、その内容の濃密さとエゴイズムの行く末を読み進めずにはいられないだろう。

ちょっとだけ、本文を引用してみよう。

• 本文より


「貴方は何故清子さんと結婚なさらなかったんです」
問は不意に来た。津田は俄かに息塞(いきづま)った。黙っている彼を見た上で夫人は言葉を改めた。


「じゃ質問を易(か)えましょう。――清子さんは何故貴方と結婚なさらなかったんです」
今度は津田が響(ひびき)の声に応ずる如くに答えた。


「何故だか些(ちっ)とも解らないんです。ただ不思議なんです。いくら考えても何にも出て来ないんです」


「突然関さんへ行っちまったのね」


「ええ、突然。本当を云うと、突然なんてものは疾(とっく)の昔に通り越していましたね。あっと云って後を向いたら、もう結婚していたんです」(本書461ページから引用)

                  ★

なんかね。この部分だけでも、「後先なんてどーでも良くってさ。最後は清子に行き着くまでさ」とでもいいそうな、「わかんない性(さが)」丸出しの津田。

そこに悪気はない。さしづめ、突然津田を捨てた清子も同じように「わかんない性(さが)を持つ」者のよう。

夏目漱石は「どーでもいい話」を最高に面白く書くエンターテインメントなんだ。

だって、『明暗』なんか、平凡な夫婦の話と、昔付き合っていた男女の話でしょ?

それを、危うい気持ちを書くことで心理戦に持ち込んで、ちゃんと濡れ場では絡み合う・・・ということだけを、つらつらとずう~~~~っと描かれる長編大作なのだもの。

どう?昔のロングバケーションを読んでみたいと思わない?あっ!思わないか(笑)

だって、どこにでもある男と女の話だもんで。

ただ、笑っちゃうというか凄いなあ~と、思うのが作家夏目漱石の最後の作品だってことだ。

本物のエンターテインメントだったってわけ。

~2月21日「夏目漱石の日」によせて~




🍊

『大人の作法』山本益博・著(KKベストセラーズ)【選書・文化】

【ブログ新規追加632回】

先日のブログで、潔癖症には気をつけて!というユルい話を書いたところ、ある方から「マナーとルール」の話を書いて!と、打診された。

マナーとルールだったら、この人がピッタリじゃないか?と思い立って探し出したのがこの本だ。

で、早速読んでみたら単なるマナーやルールを認めたテキストではなかった。

「師弟を持つ人生の素晴らしさ」と「師匠から学んだ数々の文筆に対する講釈」や「文楽などの日本文化や教養を徹底的に叩き込まれた学生時代」これらの人生に通づる生き方を、「師から教わったことを師の教え通りに文章で伝えて行く」というライフワークを確立して来た素晴らしい書籍だったのだ。

ここで、著者・山本益博氏について簡単に紹介しよう。

1984年、東京浅草生まれ。早稲田大学第二文学部演劇科卒業。卒論「桂文楽の世界」を卒業時に「さよなら名人藝」(晶文社)から初出版された。

その後、「東京・味のグランプリ200」(講談社)を出版する。以来、食に関する著述、講演、TV、ラジオ出演多数。

山本氏は、料理を作る研究家としてではなく「料理評論家」として、外食の持つ本来の楽しみ方を世間に広く伝え続けてきた。

わたしの山本益博氏の印象は、日本の懐石料理や高級フランス料理など美味しいものをただ美味しく食べるだけではなく、文章を読んだとたんに、その料理が本当に美味しいんだ!と伝わる文章表現を極めてきたことに、大変な熱意だと感じたのを今でも覚えている。

しかも、すべての料理を現地で頂きレポートの数も物凄い。単なる食通ではない、経験に裏付けられた言葉選びからにじみ出る確かな説得力。実際に現地へ出向き、頂いてきたからこその堂々たる振舞いが文章の上でも踊っているんだ。

大人の作法』山本益博・著(KKベストセラーズ)

著者の山本益博氏は、完全なる団塊の世代だ。山本氏が言うには、「団塊の世代の特徴は「師」を持たないことだろう」と言ってのけている。

それはなぜか?と言えば、団塊の世代には、上の世代や古い価値観を否定することによって、自らの存在意義を証明せんと、してきたところがあるからだと述べられている。

青春時代が60年代から70年代前半だったからだとも。全共闘世代であり、学生運動が盛んで結婚しても核家族化が進んで、親世代の干渉を避けてきたのだとも言われた。

この風潮にあっても、年長者を否定するどころか、山本益博氏は先輩や師にどんどん教えを求めて行く。世間的には「落第生」だと言われつつも。

そんな、年長者になぜ、長年教えを請うて来たのか?

それは、師の師たる「言葉」と「立ち振る舞い」に惹きつけられたんだそうだ。団塊の世代が失ってしまったものがそこにあったんだと。

最後に。

「男の品性は食に表れる」という章を読んで。

美味しいものを美味しく食べる・・・当たり前じゃん!?

では、美味しいものを本当に美味しく食べているか?この微妙な1点を明確にするために書いたのがこの『大人の作法』なのだ。

美味しいものを食べたければお金の力を使えばいい。しかし、それでは胃袋をただ満たすだけだ。

美味しいものをきちんと美味しく頂くための極意、それは「食卓にある」と言い切る。

本書では、山本益博氏のオリジナルな考えはまったく反映されてはいない。彼を育てた素晴らしい先達の言葉を紡いでできている。

「言葉よりも行動で教える」先達。そこから「作法は行動だけでなく言葉で残す」と、山本益す博氏。

使命は「次の世代への継承」なのだから。


★2024年2月7日更新 『山と食欲と私』信濃川 日出雄・著~山漫画の新定番80万部突破~大人買いしたので早速レビュー🎶【選書・文化】

【ブログ新規追加622回】

「●●と⦿⦿と私」とかって、昔、歌にもあったけど、インパクト大なタイトルになるね。

男性漫画だけど、27歳のOLが主人公のとっつきやすく読みやすい漫画だ。

で、今回は1巻から10巻まで一気に大人買いしちゃった(笑)

山と食欲と私』信濃川 日出雄・著

さっそく、コミックのレビューを書いてみよう。

• 簡単レビュー

会社員の日々野鮎美(27歳・独身)は、「山ガール」と呼ばれたくない自称「単独登山女子」だ。なぜ、単独=ソロに徹しているのか?それは、人見知りが激しいからだそう。

美味しい食材をリュックにつめて今日も一人山を登る。(平日は炭水化物・禁で、金曜の夜からどんどこ炭水化物を食べる食生活だ。それもこれも、山登りに適した体を作るためだ)

欲張りウィンナー麺、雲上の楽園コーヒー、魅惑のブルスケッタ、炊きたてご飯のオイルサーディン丼等々。

読むとお腹が空くし、断然、山に登りたくなる!

WEBマンガサイト「くらげバンチ」で最速で100万アクセスを突破したアウトドア漫画の決定版が誕生した。

                    ★

この漫画に出会ったのは、アウトドアショップ(Wild One)でのこと。軽妙なタッチの画風に山登りの知識やスキル、男女のそれぞれお困りネタなどが満載で、わたしが一番グッときたのが、「山飯」のバリエーションの多さ!

ああ~~、この漫画全巻欲しい!と思って数ヶ月が経ってしまったが、1月末、重い腰を上げて探し始めたんだ。もちろん「ブックオフ」で(笑)

初めからオンラインで探さず、リアル店舗を数件回ってやっと見つけたので買い占めてきた。(丁度、20%オフの日で1冊分が只になったよ・ほくほくだね)

現在は15巻まで出ている。新しい分は新品で購入しよう。

毎回の山行でのご飯比率はうなぎのぼりだから、メニュー開発のお手本にしてみたい。

意外だけど、あの登山女優の市毛良枝さんは、山飯はやらなかったそうだ。常に行動食(軽いお菓子)だけで山を登る。

理由は、麓の美味しい料理を存分に味わうことや、登山時の荷物を極限まで軽くしたかったのだそうだ。

そうよね。わたしのザックの中も大半が「山飯」関係のものばかりだ。一番重いのが「水」だ。飲み水やラーメンなど調理に必要なものだ。だいたい、一回の登山で2ℓを背負ってる(笑)

水に当たる場合もあるから、現地で汲むとかは絶対にやらないで、家で水道水をペットボトルに詰めて登ってきた。

と、こんなわけで、山と飯、登りのスキルと知識満載の一冊となっているのだ。

また、主人公が人見知りのOLさんで、平日の職場の話も面白い。

毎週末は山なので、炭水化物を調節しながら摂るロカボもやっているとか、筋トレになるような通勤の仕方など、すべてが山登りに繋がるお話になっていて、めっちゃ楽しい。

さて、わたしもこれ読んだから、2月の山行先を決める♪

 

★2024年1月19日更新 『短編集・謎のクィン氏』アガサ・クリスティーを読んで~短編集には「暮らしの達人」が登場する嬉しさを見つけた🎶【選書・文化/推理小説】

【ブログ新規追加564回】

アガサ・クリスティーの推理小説は何が好き?

そう聞かれたらヤバイ(笑)だって、ほとんど読んでないんだもの!

映画で「オリエント急行殺人事件」やビデオで「「ナイルに死す」などを観た覚えがあるだけ。(TOPの写真は「ナイル殺人事件」1984版の画像を拝借した)

そこで、年末にアガサ・クリスティーの短編集「謎のクィン氏」を探して借りたのだ。このあたりで「世界の推理小説の女王」の作品を堪能したいと思ってね。

忙しい年末、おせちの煮物を煮る間、ちょっとの時間でも読める短編集。これでミステリー不足を補充できるかしら?

だって、ミステリアスなものや謎めいたものって、非現実的だとも思えるけど、普通の暮らしでも、頭のいい詐欺師はいっくらでも存在している。

そうした知恵の回る輩を捉えたり、回避したりするにはミステリーの持つ非凡な感性や手法はぜひとも習得してみたかったの。

また、わたしは大の「短編小説好き」だったのを思い出して、アガサ・クリスティーの作品が短編で読める!なんてとても、嬉しくなった。

謎のクイン氏』アガサ・クリスティー著(早川ミステリー文庫)

簡単にレビューしよう。

アガサ・クリスティーが1930年に発表した短編集として三作目となる作品だ。


タイトルがすでに「謎」を彷彿させるが、原題の「The Mysterious Mr.Quin」の方が作品の雰囲気を伝えているかもしれない。


12篇の短篇が収められていて殺人事件を解くだけでなく、恋愛ミステリーと呼んでいいものもある。


12編すべてにクィン氏が登場する。

「黒髪で、陰気で、微笑んでいながら、悲しげ」に見えるハーリ・クィン氏。

彼は実は「探偵」でもないし、この短編集の主人公でもない。

主人公は、69歳の紳士サタース・ウェイト氏である。社交界にも通じる名手だ。

サタース・ウェイト氏のことを、アガサ・クリスティは「暮らしの達人」と称して主人公に据えている。

サタース氏は着る物から食べ物まで暮らしのあらゆることに、洗練された趣味のよさを持っている紳士なのだ。

まさに、「暮らしの達人」だと。

いい名称よね。(わたしもブログの名前を「暮らしの達人」と変えたくなっちゃった・笑)

サタース氏の姿は「人生という名前のドラマの熱心な研究者」であり、その研究の神髄は「人間たちが繰り広げる悲喜劇への並外れた興味」だと言い切る。

そこで、サタース氏が、偏愛ともいえる人間観察を投影させる相手として、「謎深い」クィン氏という同年代の男性紳士を登場させて、数々の殺人事件を解明していく・・・というストーリーだ。

この短編での読みどころは「クィン氏は謎を解かない」という一点だ。

クィン氏の謎ときの方法は、「その人間の持つ印象」に重きを持っていて、それをつぶさにサタース氏に伝えるのだ。

サタース氏も、次第にクィン氏が現われる時は、何か事件が起こる前兆だと考えるようになっていく。

いいや、サタース氏が自己投影した姿がクィン氏で、本当は実在しない人間なのかも・・・。

短編を読み進めると、読み手もサタース氏のようにクィン氏は何者なんだろう?と、思うように仕組まれている、見事な文章マジック!

やっぱり、ミステリーは読み手を騙してナンボ(笑)